市中感染症について
~外来でよく見られる感染症の特徴と注意点~
市中感染症とは、病院や施設内ではなく、日常生活の中で自然に感染する疾患の総称です。
以下に代表的な疾患とその特徴をご案内します。
急性咽頭炎(主にウイルス性・細菌性)
原因
多くはウイルス(ライノウイルス、アデノウイルス、EBウイルスなど)によるものですが、A群β溶連菌(Streptococcus pyogenes)による細菌性咽頭炎もあります。
主な症状
- 咽頭痛
- 嚥下痛
- 発熱
- 白苔や扁桃の腫脹
- 頚部リンパ節腫脹
診断・治療
迅速抗原検査で溶連菌感染の有無を判定します。ウイルス性の場合、対症療法が中心となります。細菌性(溶連菌)の場合は抗菌薬(ペニシリン系)を適切に処方し、リウマチ熱などの合併症予防が重要です。
急性気管支炎
原因
主にウイルス(インフルエンザウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど)によって引き起こされます。
細菌性肺炎とは異なり、抗生物質を必要としないケースがほとんどです。
主な症状
- 咳嗽
- 喀痰
- 発熱
- 胸部違和感
診断・治療
問診と身体診察のみで診断可能なことが多いですが、肺炎との鑑別にレントゲンが必要な場合があります。 抗菌薬の過剰使用を避けるため、原則対症療法となります。
肺炎(市中肺炎)
原因
代表的な病原体には、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ桿菌(H. influenzae)、マイコプラズマ、クラミジア肺炎、ウイルス性肺炎(コロナウイルス、RSV など)があります。
主な症状
- 発熱
- 咳嗽・喀痰
- 呼吸困難・胸痛(深呼吸で増悪)
- 全身倦怠感
- 食欲不振
診断・治療
診察、血液検査、胸部レントゲンなどを用いて診断します。
年齢・基礎疾患・重症度に応じた抗菌薬治療を使用します。
尿路感染症(膀胱炎・腎盂腎炎)
原因
大腸菌(E. coli)が80%以上を占め、腸内細菌が尿路に侵入して発症します。女性に多く見られます。
主な症状
- 膀胱炎:排尿時痛、頻尿、残尿感
- 腎盂腎炎:高熱、悪寒、腰背部痛、全身倦怠感
診断・治療
問診、身体診察、尿検査で診断します。膀胱炎は外来での抗菌薬治療が可能(セフェム系、ニューキノロン系など)。
腎盂腎炎では内服で対応可能な場合もありますが、点滴治療や入院が必要になることもあります。
感染性胃腸炎(ウイルス性・細菌性)
原因
ウイルス性(ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなど)
細菌性(カンピロバクター、サルモネラ、腸管出血性大腸菌など)
主な症状
- 下痢
- 嘔吐
- 腹痛
- 発熱
- 脱水症状に注意(特に高齢者や乳幼児)
診断・治療
ウイルス性胃腸炎が多く、治療の基本は対症療法となります。
細菌性(特にO157など)の場合、抗菌薬は使用タイミングを誤ると有害事象を誘発するため、適切な判断が必要です。便培養を行うこともあります。
帯状疱疹(ヘルペスウイルス再活性化)
原因
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化による末梢神経の炎症。
主な症状
- 体の片側に沿って出現する水疱と紅斑
- 強い神経痛(皮疹より先行することも)
- 顔面神経、眼神経が侵されると合併症のリスクあり
診断・治療
皮膚所見で診断可能。抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビルなど)を早期に投与することで帯状疱疹後神経痛(PHN)のリスク低減が期待されます。
高齢者や免疫低下患者では重症化しやすいため、早期治療が重要です。
感染自体と重症可や神経痛の残存を予防するために帯状疱疹ワクチンの接種が重要です。
市中感染症の自己判断は危険です! 症状が軽度に見えても、進行や重症化のリスクがある疾患も含まれます。 適切な診断と治療のためには、早めに医療機関を受診することが重要です。