甲状腺はホルモンを分泌する内分泌器官で、喉ぼとけの下あたりに位置します。蝶のような形をしたこの臓器は、食物に含まれるヨウ素を材料に、甲状腺ホルモンを生成します。このホルモンは代謝の促進や体温調節を行う重要な役割を担っています。

甲状腺に異常が生じることで発症する病気が甲状腺疾患です。その中でも、ホルモンの分泌が過剰(甲状腺機能亢進症)または不足(甲状腺機能低下症)するタイプや、腫瘍ができる甲状腺良性腫瘍や悪性腫瘍があります。

甲状腺疾患は、先天性のものを除くと女性に多くみられます。バセドウ病は男性1に対し女性が4~5、橋本病では1:10という割合です。主に20~40代に多く発症し、小児や高齢者の発症は少ないです。

甲状腺疾患の主な症状

ホルモン過剰分泌時の症状

喉の渇き、多汗、食欲旺盛でも体重減少、動悸、頻脈、下痢、手の震え、イライラなど

ホルモン不足時の症状

疲労感、顔や体のむくみ、徐脈、食欲不振でも体重増加、だるさ、無気力、便秘、寒がり、声のかすれなど

腫瘍の症状

頸部のしこりや腫れ、喉の違和感など

主な甲状腺疾患

バセドウ病

甲状腺から過剰にホルモンが分泌される状態をバセドウ病と言います。甲状腺機能亢進症の代表的な疾患で、主に自己免疫疾患が原因です。甲状腺が過剰に刺激され、ホルモンが多く分泌されることによって、全身の代謝が高まり、汗をかきやすい、動悸、食欲旺盛でも体重が減る、手の震え、暑がりといった症状がみられます。眼球突出や首の腫れも特徴的です。

治療法としては、薬物療法、アイソトープ治療、手術療法があり、通常は抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)による治療が始まります。

破壊性甲状腺炎(無痛性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎)

破壊性甲状腺炎は、甲状腺が炎症を起こして破壊され、ホルモンが血中に漏れ出すことで発症します。亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎の2種類があります。

亜急性甲状腺炎とは

風邪の後に起こる甲状腺の炎症で、ウイルス感染が原因と考えられています。炎症は強く、甲状腺部の痛みや嚥下痛、発熱があり、ホルモン過剰による動悸、手の震え、発汗、倦怠感、体重減少などの症状も伴います。炎症が治まれば症状は改善しますが、期間は数週間から3か月です。痛みが強い場合は、解熱鎮痛薬で対処します。

無痛性甲状腺炎とは

主に橋本病の患者に発症しやすく、最初はホルモンが過剰に分泌され、その後はホルモンが不足して機能低下の症状が現れます。自己免疫が関係していると考えられており、出産後の女性にも多くみられます。症状としては、動悸、発汗、手の震えなどの過剰分泌時の症状と、倦怠感、寒がり、体重増加などの機能低下症状があります。通常は3か月程度で自然に治りますが、必要に応じて内服薬を使用します。

橋本病

自己免疫の異常で甲状腺が破壊され、慢性炎症を引き起こす病気です。甲状腺機能が低下し、代謝が下がることで様々な症状が現れます。40~50代の女性に多い病気です。

甲状腺が腫れて首の圧迫感を感じたり、ホルモンが不足すると発汗の減少や皮膚の乾燥、寒がり、便秘、体重増加、むくみ、脱毛などの症状が見られます。治療は甲状腺ホルモン投与によって行われます。

甲状腺腫瘍

甲状腺に発生する腫瘍には、良性と悪性のものがあります。良性の腫瘍には、甲状腺腺腫などがあり、悪性の場合は甲状腺がんが含まれます。腫瘍が大きくなると、首にしこりを感じ、飲み込みや呼吸がしにくくなる場合があります。診断には超音波検査や細胞診を用い、治療は腫瘍の種類に応じて手術や放射線治療、薬物療法が行われます。