循環器内科とは

人の体内では、常に血液が巡っています。この血液の循環に関わる器官が循環器で、特に血液を全身に送る心臓と、血液を循環させる通路である血管(動脈・静脈)が主な対象となります。これらの異常や疾患に対して、診察・検査・治療を行う科が循環器内科です。

「循環器」という言葉はあまり馴染みがないかもしれませんが、次の症状に心当たりがあれば、循環器の疾患を抱えている可能性があります。医師の判断で、胸部X線検査や心電図、ホルター心電図(携帯型で24時間心電図を記録)、超音波検査(心エコーや頸動脈エコーなど)を用いて、総合的に診断を進めます。

当診療科で
よくみられる症状

  • 血圧が高い(高血圧と診断された)
  • 胸に痛みを感じる ・胸部が圧迫される感じがする
  • 少し動くだけでも息切れする
  • 身体(顔や手足など)がむくんでいる
  • 背中に痛みがある
  • めまいまたは失神がある
  • 心拍リズムが乱れている(脈が速い、または遅い)
など

循環器内科で診療する
代表的な疾患

高血圧、不整脈、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、心臓弁膜症、心筋症、心肥大、心不全、大動脈解離、大動脈瘤、肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)など

高血圧

外来で血圧を測定した際に、収縮期血圧(最高血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(最低血圧)が90mmHg以上と判定された場合、高血圧と診断されます。一度の測定で診断することはなく、同じ条件下で複数回測定して結果を判断します。

高血圧の原因は大きく2つあります。1つは本態性高血圧で、日本の高血圧患者の約9割がこれに該当します。このタイプの原因は明確ではありませんが、遺伝的要因や生活習慣(塩分の摂りすぎ、過食、喫煙、過度の飲酒、ストレスなど)が関連しているとされています。もう1つは二次性高血圧で、特定の疾患に伴って発生する高血圧です。腎性高血圧(腎実質性、腎血管性)、内分泌性高血圧(原発性アルドステロン症、クッシング症候群、先端巨大症、甲状腺疾患など)がこれにあたり、薬剤の影響や睡眠時無呼吸症候群による高血圧も含まれます。

主な症状としては、慢性的に高血圧状態でも自覚症状が現れにくいため、多くの方は健康診断などで血圧を測定するまで気づかないことが多いです。症状が出ないまま放置すると、心臓に負担をかけ、血管壁に圧力が加わり続け、動脈硬化を進行させます。これが進むと、脳血管障害(脳梗塞、脳出血)、心疾患(狭心症、心筋梗塞、心不全、心肥大)、腎臓疾患(腎硬化症)などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。

治療について

治療の目標は、血圧を適切にコントロールし、合併症を防ぐことです。まずは生活習慣の改善が重要です。特に食事療法では、塩分摂取を1日6g未満に抑えることが求められます。日本人の平均摂取量が約10gであるため、減塩には工夫が必要です。食事内容は野菜や魚を中心にし、脂肪分の多い食品は控え、バランスの取れた食事を心がけます。また、飲酒の制限や禁煙も重要です。

運動療法としては、血圧を下げるために、有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング、自転車など)を1日30分以上、できる限り毎日行うのが望ましいです。運動を始める前に医師と相談することをおすすめします。

上記の方法だけでは血圧の管理が難しい場合は、薬物療法(降圧薬)も併用します。高血圧の程度に応じて、1種類の薬で済む場合もあれば、複数の薬を組み合わせて処方されることもあります。使用される薬には、カルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬、β遮断薬などがあります。

狭心症

心筋には冠動脈という血管を通して酸素を含む血液が供給されます。この冠動脈が何らかの理由で狭くなったり、一時的に詰まったりすることで酸素が不足し、胸部の痛みなどの症状が現れる状態が狭心症です。

主な原因は動脈硬化の進行で、加齢のほか、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病、そして喫煙が関係するとされています。動脈硬化が進むと、冠動脈の内壁にコレステロールが蓄積し、プラークが形成されます。これが血流を妨げることで、体を動かした際に胸痛や圧迫感が現れる労作性狭心症が引き起こされます。これらの発作は通常5分程度続き、安静にすれば症状は軽減します。

また、プラークが破裂し、血栓が形成されると、さらに冠動脈が狭くなり、不安定狭心症が発症します。この場合、安静にしていても胸痛や圧迫感が現れ、発作は数分から20分程度続くことがあります。血栓によって冠動脈が完全に詰まると、心筋梗塞へと進展します。

冠動脈がけいれんを引き起こし、一時的に血流が悪化することで発症する冠痙縮性狭心症もあります。これは動脈硬化とは関係なく、特に夜間や早朝に安静時に発症することが多く、胸部中央に痛みや圧迫感を感じることが特徴です。この発作は通常数分から15分程度続きます。

治療について

狭窄した冠動脈が原因で胸部の発作が起きる場合、硝酸薬(ニトログリセリンなど)を使用します。発作の予防には、硝酸薬、カルシウム拮抗薬、β遮断薬(冠痙縮性狭心症では除く)などが処方されます。また、血管が狭まった場合には、カテーテルを使用して冠動脈を広げる経皮的冠動脈インターベーション(PCI)などの治療も行われます。

これに加え、動脈硬化の改善を目的としたスタチン系薬剤の使用や、食事療法や運動療法を取り入れることで、心筋梗塞への進行を予防します。

心筋梗塞

心筋に血液を送る冠動脈が完全に閉塞し、酸素が供給されなくなることで、心筋が壊死し、命にかかわることもある状態が心筋梗塞です。

冠動脈の閉塞の主な原因は、動脈硬化の促進によるものです。これは加齢、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病や喫煙によって引き起こされます。冠動脈にコレステロールが蓄積し、プラークが形成され、最終的にプラークが破裂し血栓ができて冠動脈が完全に詰まると、心筋梗塞(急性心筋梗塞)と診断されます。

この閉塞により、血液が届かなくなると胸部や背中に強い痛み、冷や汗、吐き気、息苦しさなどの症状が現れます。発作が20分以上続く場合、心筋梗塞が強く疑われ、40分程度経過すると心筋の一部が壊死し始めます。迅速な治療が行われないと、命に関わる可能性があります。

治療について

発症直後であれば、詰まった冠動脈を速やかに解消するために、カテーテルで血管を広げる経皮的冠動脈インターベーション(PCI)が実施されます。PCIが困難な場合には、血栓を溶かす注射による血栓溶解療法が検討されます。

発症から時間が経過している場合は、薬物療法が中心となります。抗血小板薬、スタチン系薬剤、硝酸薬やβ遮断薬、カルシウム拮抗薬などが用いられ、血液の凝固を抑え、動脈硬化の進行を抑える治療が行われます。

心不全

心不全は病名ではなく、心臓の働きが低下している状態を指します。具体的には、心臓が血液を送り出す力が衰え、十分に全身へ血液を供給できなくなっている状態です。その結果、血液の流れが滞り、所謂うっ血を引き起こすなど様々な症状が現れます。

心不全の原因は一つではなく、高血圧や虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、心筋症、心臓弁膜症、不整脈、または肺疾患や甲状腺機能亢進症、薬剤の影響など、様々な要因が複合して発症します。

心不全は急性と慢性に分類されます。急性心不全では、急激に心臓の機能が低下し、呼吸困難、咳、泡状の痰、胸痛などが急に現れます。慢性心不全は時間をかけて心臓の働きが弱まる状態で、息切れ、体のむくみ、体重の増加が特徴的です。

診断は、血液検査や心電図、心臓の動きを調べる心エコー検査や胸部X線検査によって行われます。

治療について

急性心不全の場合は、まず酸素吸入を行い、呼吸困難を緩和させます。その後、血管拡張薬、利尿薬、強心薬などの薬物療法が行われます。慢性心不全の場合は、同様に利尿薬や血管拡張薬、β遮断薬などを使用し、症状のコントロールを行います。また、食事療法や運動療法も重要で、生活習慣の改善を通じて心臓への負担を軽減します。